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山下三夫のこだわりさかな手帳

魚の話は楽しいねえ
「魚の話は楽しいねえ」私が魚について話し始めると、たいていの人は相好を崩して身を乗り出してくる。 一口に魚といっても、市場での吟味の仕方、漁獲方法、おいしく食べるにはどうすれば良いのかなど話題は尽きないから、 そんなお客さんとはカウンターをはさんでついつい話し込んでしまう。 私も興が乗ってくると、漁船に乗っていた若い時分の話まで交えてしまうから、そうなるともうエンドレスだ。 気がつくととっくに看板の時間だったりする(笑) その点は少々反省しているが、それだけ魚の話は奥が深く一般の方にも関心をもって聞いてもらえるということだろう。 このホームページでは、私がいつもカウンター越しに話している魚の話をざっくばらんにそのまま書いていこうと思っている。 気の利いた話にはならないかもしれないが、魚をおいしく食べるための情熱は誰にも負けないつもりだ。

マグロをさばいて目からウロコ
よく北陸の魚はうまいと言われるが、その理由についてきちんと説明できる人は少ないのではないだろうか。 私自身も店をオープンした最初の頃は、とくに何も深く考えず市場に出かけていた。 「とにかく新鮮だからうまいのだ」せいぜいそれくらいの意識しかなかった。 だが、競り人の友人から送られてきたメジマグロをさばいたときに、私はそれまでの魚選びが甘かったことに気付く。 そのメジマグロは、包丁を入れた瞬間、私の手を揺らすほどイキが良く、まるで生きているようだったのである。 「なんだ!この感触は!いつも仕入れているマグロとはまるで違うぞ」 そのメジマグロは富山県の氷見で獲れたものだった。

氷見は料理人のパラダイス
「氷見にはこんな刺激的なマグロが上がるのか」いてもたってもいられなくなった私はすぐに氷見に向った。 そのとき氷見の漁港で見た光景を私は今でも決して忘れない。 濃厚な潮の香りの中、そこではどの魚もぴちぴちとした肌を光らせ、今か今かと競りを待っていたのだ。 私は思わず仕入れを忘れて、そんな大量の魚たちに見とれていた。 「同じ日本海でも揚がる魚は全然違う!プロとして魚のうまさを新鮮とか脂がのっているとかという安易な言葉で片づけてしまってはいけない」 本当の意味で私が魚にこだわりだしたのは、このときの氷見での体験がきっかけになっているといえるだろう。

富山湾の秘密
氷見や新湊など富山県の漁港に揚がった魚を専門に扱う料理店が首都圏でも増えていると聞くが、 私からみても富山湾でとれる魚はうまみが違う。それは富山湾の地形に大きく関わっている。 日本海が暖流と寒流のぶつかりあう好漁場であることは言うまでもないが、 その中でも庄川や神通川など大きくて深い川が流れ込む富山湾には大地の栄養分がたっぷりと運ばれてくる。 つまり魚の餌になるプランクトンも豊富なのである。おまけに富山湾は北に面している。 北西の季節風が日本海を荒らすと、それにもまれた魚たちは湾に集まり良質の餌を食べることになる。 良い餌を食べれば、それだけ脂の乗りもボリュームも増す。氷見や新湊の魚をうたい文句にする根拠はこんなところにあるのだ。

活きの良さってどういうこと… ?
「脂がのってて活きがいいねえ」とお客さんに言われれば、朝早い仕入れの苦労もいっぺんに吹き飛んでしまう。 そうなるとうれしくなってついつい語ってしまうのが私のくせだ。 そもそも魚の脂と鮮度とは大きな関係がある。 今が旬の戻り鰹に例えよう。普通、戻り鰹といえば太平洋側を経由するのだが、たまにどういうわけか群れから離れて日本海側に下がってくるものがいる。 近場の富山湾などで獲れたカツオとなれば鮮度も良く、私たち料理人も腕が鳴るのだが、その活きの良さの裏に隠されているのは脂肪なのである。 戻り鰹はたっぷりの脂がのっていることで知られているが、実はその脂肪分には魚肉の酸化を防ぐ効果がある。 つまり脂がのっていればカツオといえどもそう簡単には変色せず、赤いガラスのようにきらきら輝いているのである。

戻りカツオに異変あり!
ところで、カツオに関しては耳寄りなニュースがある。 今年の夏は猛暑だった。私の知り合いの漁師などは50年に一度の異常気象だと言っているが、おかげで海の水温が高くなり戻り鰹の到来もかなり遅れたらしい。 十分に脂の乗ったものが揚がり始めたのはつい最近のことだという。カツオを食べるなら今だ!

目黒のサンマもいいけれど…
秋の魚の代表選手、サンマの食べ方は塩焼きが一般的だ。たしかに焼きサンマは秋の風物詩といえるが、そればかり続くのもバリエーションに欠ける。 そこで私が勧めるのはサンマの刺し身である。タタキでも良い。 昔に比べ流通が良くなり旬のサンマを生で食べられるのはうれしい限りだ。ただし、素材選びは慎重にいきたい。 外見は真っ青で光沢と張りがあり、身が赤いものが鮮度の良いサンマである。そんなサンマを刺し身にすれば高価なアジなどよりいけるはずだ!

貝は水産物の小さな巨人
貝は知られていないことが意外に多い。例えばバイ貝だが、日本海では白バイ、黒バイ、ウスバイの3種類が主に採れる。(白バイは道路でも見かけるが…) このうちおいしいのは、なんといってもウスバイ! ウスバイは殻がとてももろく、手で簡単につぶせてしまう。 つまり栄養分が殻の形成に使われず、貝身に残っているということなのだろう。 ちなみに地元の漁師はバイ貝からどろっとたれてくるぬめりを精力剤として飲んでいるそうだ。 小さくても貝の栄養分は計り知れないのである。

脂ののった"金魚"に生唾ゴックン!
日本海側は12月に入ると雷が鳴って雪が降る。 耳をつんざくような雷鳴は長年、北陸に暮らしている人でもなかなか慣れないというが、私はこの雷がうれしくてたまらない。 戦いの火蓋が切って落とされる瞬間のようにワクワクするのだ。といっても、別にどこかへ殴り込みに行こうというわけじゃない(笑) 厳しい冬の嵐を告げる雷がブリの大漁を呼ぶのである。プロの料理人にとって冬のブリは興奮を覚える魚のひとつだろう。 私もブリに包丁を入れる瞬間は思わずゴクリと喉を鳴らしてしまうほどだ。 ところで、市場や漁業関係者の世界には隠語の類が多いのだが、極上のブリのことを金魚と呼んでいるのはあまり知られていない。 たっぷりと脂肪のついたブリは尾が固くふくれあがり出目金のようなスタイルになるからそう呼ぶのだが、 金魚と形容されるようなブリは割いた腹から手を入れようとしても肉が盛り上がっていてなかなか入っていかない。 そんな金魚に包丁を入れるときは、戦っているような気分になる。 私にとって真冬の雷は、やはり戦闘開始の合図なのかもしれない。 競りをかけるのはもちろん活きのいい"金魚"だ。

情けは禁物… 白子物語
魚は、どこでいつ獲ってきたのかによって味が大きく左右される。 冬場、珍重されるタラの白子はとくにそうだ。私の経験からいって白子の一番の旬は晩秋から初冬にかけて、 場所でいくと能登島から佐渡あたりで獲れるものがベストといっていいだろう。 もっとポイントとタイミングを絞るなら輪島沖の巻き網にかかる11月中旬頃のものが最高だ。 反対にぱっとしないのは、年明け頃に富山湾で獲れるものだろう。この時期になるとタラは産卵に入る。 ということはつまり白子は精液の発射後で急激に張りを失っているのだ。わかるねえ。くたくたになったオスに思わず同情してしまう。 せめて精液発射後に食べてやるのがオスのタラへの情けかもしれないが、やはり旬の味わいには代えられない。 口の中に広がる濃厚な味を知ってしまったら、誰もが情け容赦なくなるはずだ。 ちなみに一般の方々は器に盛られた白子しか知らないだろうが、発情前の白子は明るいピンク色をしている。 それが熟すにつれて白くなっていき、交尾が近づくとその白い部分にオスのエネルギーを主張するような血管が浮き出てくる。まさに食べ頃だ! タイミングさえ逃さなければ、そんな鮮度の良いタラの白子を口にできるのだから北陸に暮らす人はつくづく幸せだと思う。

七つ道具を持つ魚
アンコウは見た目、グロテスクだが、冬の料理には必ずお呼びのかかる魚だから仕入れは大切だ。 私はとにかく生きていて大きなやつを狙う。大きなアンコウは肝も大きいからだ。 アン肝を刺し身にしてできるだけ多くのお客さんに味わっていただきたいと思っている。 が、だからといってアンコウは肝だけに終わる魚ではない。 よくアンコウの七つ道具と言われるように、肝、トモ(ひれ)、背中の皮、腹の皮、ほほ肉、胃袋、そして本身と、実に食べがいがある魚なのである。 身は全体的にあっさりしていて水っぽいので、本身を刺し身にするときは一度、湯引きして身を締めてから出すことにしている。 ただ、ほほだけは割合しっかりした肉なのでそのまま刺し身にしても大丈夫、酢味噌やからし味噌で食べるとこれまたいける。 そしてアンコウは年明けになると七つ道具に卵が加わる。 アンコウの卵なんてずいぶんぜいたくな感じがするが、卵に他の旨みを奪われていくので持ち前の七つ道具にも微妙な味の変化が多少あるかもしれない。

「ひねる」「やける」… 頭の痛い業界用語?
ナマコの内臓を利用したこのわたを作ってもらうのは私の冬の密かな楽しみだ。 かつて魯山人が食客として石川県に来たときにわざわざ足を運んだほどの名人が能登にいて、そこに私も頼んでいるのだが、 これでかれこれ7年ほどになるだろうか。 ナマコは時期が遅くなると腸や内臓が硬くなり色も悪くなる。 これを私たちは「ひねる」といっているが、このわた作りはひねる前に頼まなければうまいものにはならない。 目安としては成人式の頃が旬の限界だろう。人間でも大人になると急にひねくれるヤツがいるが、人間もナマコもあまりひねんで欲しい。 「やける」という言葉もある。これは普段、海の中で暮らしている魚が陸に上がり、様々なストレスを受けているうちに生き腐れのようになることをいう。 魚の種類によって度合いは異なるが、ヒラマサなどは身が白っぽくなるものが多く、 鮮度の良いものを探すのは四苦八苦である。私も長年のカンを頼りに選ぶ以外、どうしようもない。 カニもやけることがある。鼈甲色の重量のあるものを仕入れないと、すぐに身がぶよぶよしてくる。 きっとストレスがかかりやすいのだろう。カニばっかりはいけすの中に入れておいてもやせ細って行くばかりだ。 観光客の方などは市場で買うものはすべて鮮度がいいように錯覚しているかもしれないが、 良いものを選び、扱う際にこまやかな気配りをしないとすぐにやけてしまうだろう。

本場をうならせる富山湾のハタハタ
冬の魚は豪快に脂がのるが、富山湾で獲れるハタハタも脂分がひじょうに多い。 ハタハタというと秋田が本場で、秋田の人は正月料理に必ずハタハタを使うほどだ。 でもそんな秋田に富山湾で獲れたハタハタを直送していたことがかつてあった。 ハタハタを食べ慣れている秋田の人にも富山湾のハタハタは一目、置かれているのだ。 さて、そんなハタハタだが、刺身にすると脂分があってとても喜ばれる。 ハタハタの刺身は生姜醤油との相性が抜群だ。刺身だからといってわさびと決め付けず、一度生姜醤油を試してみるといい。うまいから… また、ハタハタは11月から12月にかけて産卵する。ブリコと呼ばれるハタハタの卵は食感がいいので、生のまま調味料を加えるだけで食べてもらう。 また、卵膜の厚いブリコは炊いても美味で、モチをひくような弾力のある味を楽しみにして私の店にやってくるお客さんも多い。

見かけにだまされるな!ヒラメの抵抗
カレイやヒラメも冬場が旬だ。2キロ近いヒラメになると包丁がスムーズに入っていかないくらい肉がもちもちしている。 一見、優雅に見えるヒラメも冬の到来とともに、料理人にとってはけっこう手強い魚と化すのである。 でも、そうした立派な魚に真っ向から立ち向かい、お客さんに喜んでもらえるような料理ができたときが私にとっての至福のときなのだ。

コラム「山下三夫のこだわりさかな手帳」は、ソフトバンク北陸エリア公式サイト「北陸ライフアラカルト」より転載したものです。

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